Date: Wed, 25 Nov 1998

I N T E R V I E W : 音のある世界で
MDと風鈴を持って、山へ
Vol. 2  駒沢敏器さん


──-駒沢さんが「音」に興味を持つようになったのは、最近のことですか?

駒沢:もともとアウトドアは好きなんです。大人になると、子供の頃の体験が、自分の重要な原点になっているのに気づくじゃないですか。僕の場合それは、毎年夏にあずけられていた、田舎の親戚の家で過ごした時間なんです。その記憶を圧倒的に支えているのが、やっぱり「音」なんですよ。

──-蝉時雨とか、鈴虫の音とか……。

駒沢:僕は日本の自然が大好きです。でも昔いた"Switch"という雑誌の仕事では、テーマ的にもそればっかり取り上げるわけにはいかない。なので、フリーランスのライターになったとき、日本の自然の中で働いている人たちを、自分の足で取材して回る仕事をつくってみたんです。

──-著書の「街を離れて森の中へ」ですね。すごくおもしろかった。飛騨の山間部で世界的に有名なギターをつくっている人たち、北海道の森で何年間も鳥を観察している人。さまざまな形で自然に関わっている方を取材されてますが、その中で「音」に関するおもしろい体験はありましたか?



駒沢:その本にもあるけど、"St. GIGA"*の音収録の現場にライターとして参加できたのは、すごく大きな体験でしたね(* St. GIGAは1991年に日本で開局した衛星音楽放送。「太陽と月と海のリズム」によって、毎日変化していくタイムテーブルにさまざまな音楽と自然をのせながら、「音を通じて自然と同調する」ことを目指した。今世紀が生んだ、奇跡的な放送メディアのひとつ)。あるときその収録で、北海道の富良野へ行ったんです。この日サウンドのディレクターは、100万円もするっていう、特別なマイクを持ってきていたんです。桐の箱に、真綿でくるまれて入っているんですよ。

──-日本製ですか?

駒沢:じゃないですね。彼らのマイク選びは、写真家がロケに行くとき、どのレンズとフィルムを持っていくべきか悩みまくるのに、似ている気がします。全部は持っていけない。選ばないとならない。

──-マイクによって、録れる音がぜんぜん違うんですね。

駒沢:種類も表現も、ぜんぶ違います。で、彼はその秘蔵のマイクを、草原の真ん中で、ただこう空に向けてセットして、ジッと音を聴いていた。そして「聴いてみる?」って、ヘッドフォンを渡してくれるんです。彼らがこういうときは、たいてい自慢したいときなんですよ(笑)。
 で、言われた通りにヘッドフォンを被ってみたら、信じられないような音の世界が、そこに広がっていたんです。草原のそう遠くないところを、山が囲んでいる。その空間の中で、かすかに音が反響している感じ(エコー)とか、どこかで小川がちょろちょろ流れている音、風が強く抜けていく音。それまでまったく聴こえていなかったいろんな音が、ヘッドフォンの中に、大風景として広がっていたわけです。

──-まさに、サウンドスケープですね。



駒沢:でも、目に見えている風景は変わらないわけですよ。この落差がスゴイんだなあ。人の能力的限界をマイクが超えているだけであって、決して嘘ではない。そこがおもしろい。それまでボンヤリとしか感じていなかった世界が、こんなにさまざまな音に溢れて、美しいなんてねえ。

──-「ここって、こうだったの!」という感じの驚きですか。

駒沢:呆気にとられていたら、遠くから、セスナがきたんです。でも、まだ機影は目に見えない。見えないけど、音として近づいてくる。そのリアリティがすごくて。セスナが僕らの視界まで飛んでくる2分という時間が、ものすごい体験だったんですね。

──-ああもう、それは体験してみたいですね! 後から音だけ聴いても、目に見える風景との落差はわからないもの。

駒沢:人間の耳って、やっぱり限界があるというか。いや、かなり主観的なんですよ。個人的な体験ではあるけど、マイクひとつで、自分の感覚がグッと拡る。拡がった先で、自然をより深く感じ取れることがあるんです。

──-他の話も、聞かせてもらえませんか?

駒沢:そうですねえ。以前、「イントゥ・ザ・ミュージック」っていうテレビ番組をつくったんです。これは、アメリカのルーツミュージックを訪ねて、その音を生み出した人と土地を、音と映像で収録してみようというものでした。

──-"音を生み出す土地"、ですか。

駒沢:うん、ハワイとかアイルランドだとか、やはりいろいろ行って実感したのは、音楽っていうのは、土地から生まれてくるものだ、ということです。

──-え? もう少し、具体的に。

駒沢:たとえば、実際にハワイでハワイアンを聴いていると、それが、あの島の風や波のリズムから生まれていることが、すごく実感できるんですよ。

──-実際のところ、そうなんですか。

駒沢:いや、「風と波からリズムをとりました」なんていう古い記述を読んだわけじゃないけど、それはごくごく当たり前のことだと思う。自分たちが出す音と、環境の音が調和していなかったら、演奏していて生理的に気持ちよくなれないよね。

──-いわれてみれば、ハワイアンは屋外で演奏するものだし、歌詞の内容も、海や山や風に関するものですね。

駒沢:ミシシッピでブラック・ミュージックが育ったのも、あの土地や風土とかならず関係あるわけですよ。お囃子もそうじゃないですか。その土地の人が、どう自然に共感したかが現れているんだと思う。人が媒介して生まれる、一種の作物のようなものでしょ。音楽は。やっぱり、静岡県で津軽三味線は生まれないわけだよね(笑)。

──-"St. GIGA"での音体験は、どうでしたか?

駒沢:忘れがたいのは、屋久島のロケです。

──-Hot Wiredにも書かれていた、森に500個の風鈴を吊す話ですね。



駒沢:岡野弘幹さんのプロジェクトです。Hot Wired/日本版に詳しく書いたけど、ほんとうに新鮮な驚きがあったんですよ。彼は、カバンに大量の風鈴をしのばせて、ロケにやって来た。"St. GIGA"の放送用に自然の音を収録して、その仕事がひととおり終わった日、森の中に500個の風鈴を吊り下げはじめたんです……。




駒沢:そのうち、まわりには吊る場所がなくなってくる。なにしろ数が多いから。で、どうするかっていうと「音が鳴ってくれないと意味ないよねぇ」とか言いながら、短冊の揺れを頼りに、音が鳴るほうへと歩いていくようになる。つまり、風の道を風鈴でたどってくんです。

──-目に見えない世界が、見えてくる瞬間ですね!

駒沢:あとすごかったのは、やはり音。最初に鳴っているのは1個だけど、それが10個になると、質的な変化が生まれ始めるんです。鐘の音って互いに共鳴するんですよ。そして同じ音がいくつも重なり出すと、倍音が生まれてくる。そばの風鈴は従来の音でも、周波数がぶつかって共鳴し合ったところから、「キーン」っていう深くて長い音が出始めるんです。

──-いわば、風鈴ホーミー状態ですね。

駒沢:うん。だから、たださえ森の中を歩いていて気持ちいいのに、風鈴が増えて倍音の世界に入っていって、自分がその真只中にいて、しかもその音をさらに増やしているわけ。だんだん、おかしくなってくる(笑)。

──-外側から見たら、かなり妙な風景でしょうね。間違いなく。

駒沢:その時、ロケに屋久島のガイドさんがひとりついていたんですけど、最初は彼がいちばん嫌がっていたんだ。「気持ち悪い、こんなこと」って。でも、やり始めたらクスリやってるみたいに、だんだんすんごいハッピーになっちゃってね。彼は今にも踊りださんばかりで(笑)。実際、すんごい気持ちいいんですよ、これが。

──-岡野さんは去年、あるイベントで、お茶の水の湯島聖堂の境内にも、同じぐらいの風鈴を吊したそうですね。それを主催した人が興奮していました。「風が見えるんだよ!しかも音が動いていくんだ」。(*屋久島以外の場所で行われる時には、サウンドエクスプローラでもアナウンスしたいと思います)

──-駒沢さんは、"St. GIGA"で何を担当されていたんですか?

駒沢:いろんな音に添える、詩とも文章ともつかないナレーション用のテキストを書くのが、僕の仕事でした。

──-ラジオは、社会的な時間に合わせて番組を送ってくるけど、"St. GIGA"は自然の時間をみんなに伝えようとしていましたね。いま石垣島で夕日が沈んだとか、芝浦が満潮になったとか。世界各地で録られた自然音と音楽にまじって、ときどき静かなナレーションが入っていた。

駒沢:うん。発想自体は、それほど突飛じゃないと思うんです。ただ、それを衛星を使った放送ビジネスとして、本当に立ち上げた、ってこと自体が奇跡的だった。コンセプトがシンプルなだけに、いざスタッフがやり始めてみると、奥が深くてね。当時のテープを聴き返してみると、「ああ、すごい仕事をしていたなあ!」って、誰もが誇りを感じるんです。

──-もし"St. GIGA"がなかったら、サウンドエクスプローラもつくっていないかもしれない。そう思います。このウェブを一緒に手がけている川崎義博さんも、"St.GIGA"の最初のスタッフのひとりです。彼に昔、屋久島のロケに同伴させてもらったことがありました。普通僕らが山を登るときって、見晴らしのいい所で立ち止まりますよね。「絶景かな!」って。ところが川崎さんは、ぜんぜん見晴らしの良くない所で立ち止まる。そして、目をつむりながら「いいねぇ……」とか言って(笑)、「音」の風景を眺めているんですよね。

駒沢:そうなんですよね。僕もロケに同行しながら、録音スタッフ達の耳や、環境への入り方には、何度も驚かされました。カメラマンが一緒に行ってたら、絶対に怒るよなあって感じ(笑)。目で見ることがどうしても優先しちゃうけど、耳で感じる自然もあっていいというのかな。普段の生活の中で、素通りしてしまっていることの多さに、気付かされるんだよね。

──-駒沢さんはその後、音の聴き方が変わりましたか?

駒沢:キャンプはもともと好きなんで、気が向くとDATを持っていくようになって……。今はMDですね。旅行にも持っていく。どのみち取材で使うしね。音のいい場所があったら、そこでちょっと時間を過ごして、音を録ってみたりはします。どこかへ旅に出ようってときは、音のあるところへ向かおうとする傾向もある。それは、"St.GIGA"だけの影響ではないけど。

──-最近は“生録”ではなく、“フィールド・レコーディング”っていうそうです。

駒沢:あと、すごくシンプルなんですけど、たとえばキャンプに行くじゃないですか。そばに人がいなければ、自分たちのテントからやや遠くの木に、風鈴を吊ったりしますね。

──-おもしろいことをなさる。

駒沢:それだけですけど。

──-どんな風鈴ですか?

駒沢:岡野くんが屋久島で使ったモノと同じです。南部鉄の黒い風鈴。あれがいちばんいいな。チベタンベルなども、いろいろと試してみたんですが、宗教で使うやつは音は広がるんだけど、刺激が強すぎる。自然な感じで受け取れなくなっちゃうんですよ。

──-駒沢さんは、どんな音が好きですか?

駒沢:音そのものでいえば、月並みだけど、やっぱり水の音とか、鐘の音がいいですよね。

──-鐘の音……。

駒沢:鐘はどんな音でも好きですよ。お寺の鐘もいいし、チベタンベルもいい。鐘の音って、クルんですよね(笑)。宗教って、必ず金属の音を使うんです。たいていそうです。そういえば、鍛冶屋さんに、気が狂ってしまう人が多いって話を聞いたことがある。鍛冶屋はなかば聖職者扱いだったっていう話も、どこかで聞いた。あの、鉄を鍛える音をずーっと耳にしていると思うと、確かにね……。
 ときどきね、まぁこれは本当にファンタジーですけど、「音」から生命は生まれたんじゃないかって思うことがあるんです。僕が勝手にそう感じるだけの話にすぎないんだけど、そう考えるとおもしろい。神道でも創世伝説に、「初めに音ありき」って書いてあるんですよ。

──-へえ。知らなかった。

駒沢:音というか、振動というか…….。地球上の生命についても、半生命的な状態に、何かの刺激が加わることで生命が誕生した、って大雑把に言っていいんだとしたら、たぶんそれは音に関わりのあることなんじゃないかなぁ、とよく知らないので、勝手にファンタジーとして考えるわけなんですけど(笑)。


駒沢敏器(こまざわとしき)
1961年東京生まれ。アメリカ文学の翻訳をはじめ、取材を中心にさまざまな文章を手がける。著書に「街を離れて森の中へ」「ミシシッピは月まで狂っている」など。インターネット上では、Hot Wired/日本版に「生命の音」という連載を寄せている。

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